鍵井 瑠詩

言の葉散歩

おはようございます。以前、Nine Gallery様にて二度ほど展示会を開かせて頂きました、鍵井瑠詩(かぎいりうた)です。

私は「言葉」を扱った文芸作品を制作しています。展示会では、自由詩を書いて発表させて頂き、普段より詩をはじめとした、小説や作詞などの創作を行っています。

コラムのタイトル「言の葉散歩」。私は、普段の生活から、日常に潜む「言葉」を探すのが好きです。その中で、私が見つけた「言葉」たちを、このコラムを通じてみなさんと共有できたら素敵だな、と考えています。

写真詩展「青を読む」2023年

詩展「瑠璃色の森」2024年

コラムの初回、ということで、私がどのような人間なのか、自己紹介も交えて書いていきたいと思います。みなさんは、村上春樹の「牡蠣フライ理論」をご存知ですか?「牡蠣フライ理論」というのは、人を理解する際に、自身の自己紹介をさせるよりも、その人の好きなものを熱く語ってもらうことで、どんな人間かより深く知ることができる、というものです。好きなものとの接し方、相関関係、距離感を描き出す、それは突き詰めるとその人自身を描いていることになる、という理論ですね。私は今回、この理論を用いて「言葉」について書こうと思います。自己紹介もできて、自分の「言葉」への考え方も書けるなんて、一石二鳥ですね!

「言葉」とはそもそも何なのでしょう。とりあえず辞書を引いてみると、「その社会のメンバーが思想・意思・感情などを伝え合うために伝統的に用いる音声。また、その音声による表現行為」(新明解国語辞典 三省堂)と書いてありました。音声、、なるほど。
結論から書くと、私は「言葉」って「この世界の全て」なのではないかな、と考えています。もう少し書き加えると、世界の全て、森羅万象に「換える」ことができるもの。「言葉」というのは、音声のみに限らず、この世界によって表現されたもの全て、と考えてみるとちょっぴり面白いです。

私たちが生活する街にはどんな「言葉」があるでしょうか。明快なのは、文字でしょう。看板や掲示板、携帯の中には活字がうじゃうじゃといます。そして、声。行き交う人たちの会話や広告、イヤホンから流れる歌曲にも、言葉は声となって五線譜を辿ってます。
しかし、「言葉」はもっと多彩なように思えます。例えば、電車に乗る人々。たとえ声を出して会話をしなくても、年配の方が乗ってこられたらすっと席を立って譲ったり、満員電車で降りる際に扉付近の人が一旦ホームに出て道を開けたり、こういった体の動きにも「言葉」を読み取ることができます。もう少し探してみると、空間にも言えそうです。ワイワイと生徒たちが騒がしい昼休みの教室と、放課後の誰もいない夕陽差し込む教室とでは、感じることができる「言葉」がきっと違う。「言葉」を読む、聞く、ではなく感じる、に置き換えてみると、その多彩さが分かりやすくなるのではないでしょうか。

2024年に行った私の個展、「瑠璃色の森」では、まさに私の「言葉」の捉え方を体現したような展示を行いました。それは会場内に森を作り、その中に詩(言葉)を隠して、みなさんに森を散歩しながら見つけていただく、というものです。

「瑠璃色の森」布で作られた植物たち。白く照らされているのが詩。人物は鍵井。

この世界は「言葉」で溢れていて、そしてその中には隠されたものがある。
その「言葉」が、はたして美しいのか、はたまた滑らかなのか、それともほろ苦いのか、わからないけれど、けれど言葉が隠されているなら見つけてみたい。そして表現してみたい。
そんな思いを持って生きてみる、それが「言の葉散歩」なのかも、、なんて考えています。

見つけてきた多彩な言葉たちを、私は文字にして表現します。
どんな言葉を見つけてきても、結局自分たちの中では文字として変換して解釈するのだから、結局「言葉」とは辞書の通り音声に過ぎないのかもしれません。
けれど、冷たい夜風を浴びた時、初雪に手をかざした時、そんなふとした瞬間、文字や声ではない「言葉」を感じる時があるはずです。何を思うでもなく、文字にするわけでもなく、ただ心がそっと揺れる。それはきっと、ひらがなでも日本語でも、英語でもない、私たちでは言い表せない「言葉」。そういった瞬間に出会うたび、私は「言葉」に音声以上の豊かさを見出してしまうのです。

私、鍵井瑠詩がどんな人間か、少しは描けていたでしょうか。
初回ということで張り切ってしまい、かなり長くなってしまいました。
なので手短に、言の葉散歩の練習をしてみようと思います。

このもみじの写真、この写真にはどんな「言葉」が潜んでいるでしょう。
秋、紅葉、光、朱色、もみじ、葉脈、キレイ、ピカピカ、、、色んな「言葉」がありますね。
けれど、これらの「言葉」は隠れていないんです。見つけやすいところで、ぴょこぴょこと顔を出している言の葉たちです。その茂みのさらに奥には、どんな「言葉」があるでしょう。どんな言葉が隠れているのでしょうか。

このもみじだけなぜ光を浴びているんだろう、どうして輝いて見えるのだろう。
私に何を伝えようとしているのだろう。
そんなところから、茂みの奥へ入ってみます。



月一回のコラム連載。Nine Gallery様より貴重な機会を頂き、感謝でいっぱいです。
ぜひ、ごゆるりとお付き合い頂けると幸いです。

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩(かぎい りうた) 2004年10月19日生まれ。神奈川県鎌倉市出身。 大阪芸術大学文芸学科在学中。 2023年 展示会「青を読む」 2024年 個展「瑠璃色の森」 詩写真集「青を読む」発売中

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。