山田 凌

「一生をかけて撮影し続けていきたい場所」

 皆様、こんにちは。写真家の山田凌(やまだ りょう)です。

 7月に入り、全国各地で猛暑日が続いていますね。日中、外を少し歩くだけで滝汗が流れてしまうほどの暑さです。夏バテになっている人も多いのではないでしょうか? 日々、「やる気・元気・負けん気」で仕事と作品制作に邁進していますが、さすがにこの暑さには負けちゃいそうです・・・。ですが、「よく食べ・よく笑い・よく寝て」元気に暑い夏を乗り切っていきましょう。

 さて、6回目(最終回?)の今回は、5年ほど毎月撮影を続けている新潟県小千谷市の中山間地で開催されている越後「牛の角突き」の文化についての後編です。(前編はこちらから)https://ninegallery.com/2025/05/12/diary-8/

 前編では、角突きとの出会いや角突きの魅力や現状などをお話ししました。今回は、実際に闘牛会に入って感じたことや撮影を重ねていく中での写真の変化について書いていきたいと思います。

 私が闘牛会に入り3年ほどが経ちました。今では、取り組みが始まると闘牛場内に入って勢子(せこ)と呼ばれる牛持ちと牛を応援する役割を担っています。牛との距離感や伝統の慣わしなど、周りの先輩勢子たちの動きを見たり教えてもらったりしながら日々勉強しています。場内に入るようになり、決断しなければならないことがありました。それは大きなカメラで写真を撮るのを諦めなければいけないことです。取り組み中、場内では、牛も勢子も絶えず動いているため、ファインダーを覗いている暇はありません。「カメラを持たない」という判断はすごく難しかったですが、闘牛会に溶け込みたい、角突きの迫力を柵の内側に入って肌で感じてみたいという思いが勝りました。そこで、「場内でどうすれば写真が撮れるのか?また、場内にいる自分にしか撮れない写真はないか?」と考えました。小千谷から東京に戻り、すぐに家電量販店に行き、小型カメラを購入しました。翌月からはGoProを上半身に固定して撮影を始めました。今、目指す写真の1つに、牛と人に躍動感があってピリッとした空気感がわかる写真があります。そのためにできるだけレンズの広角域を選び、早いシャッタースピードで撮影することにしています。まだまだ試行錯誤が続きますが、面白い写真が撮れるように撮影を続けていきます。

 闘牛会に入り、もう一つ決断したこと。それは「牛を持つ」ということです。闘牛の産地である岩手県久慈市山形町に興味を持ち、訪れた時に生産者の方々と話している中で牛への強い愛情や越後とのこれまでの関係を熱く語る姿をみて「自分もいつかは自分の牛を持ちたい」と思うようになりました。それから何度か南部にいった際に気になる牛が1頭いました。毛並みは赤栗毛ですが、顔の中心に白い毛が混じってブチになっている牛で、他の牛とは違う毛並みと他の牛を気にしない大人しい性格に惹かれて可愛いと感じていました。それから約半年が経った頃に同い年の仲間から電話で「南部から牛が2頭来るから一緒に飼わないか?」と言われて最初はまだ早いと断っていたのですが、気になっていた牛が来るということで到着を待ちました。小千谷に着いてトラックから降りてきた牛を見て可愛さのあまり、心が踊り段々と飼う方向に話しが進んでいきました。牛は3歳で小千谷にきて現在は5歳になり、普段は、共同牛舎で飼ってもらいながら小千谷闘牛に毎月出場しています。闘牛にも大相撲と一緒で1頭ずつ四股名が付けられています。その家の屋号や愛称などで、私たちの牛は、「長く楽しませてほしい、翔ぶように角突きしてほしい」との意味を込めて「楽翔」(がくと)と名付けました。

 今月も小千谷牛の角突きが盛大に開催されました。天気も良くて良い取組も多くあり、見所が満載の場所でした。そこで、初めて愛牛「楽翔」を曳いて土俵入りしてから鼻綱を抜き、両牛を引き分けた後に退場までを曳くことになり、緊張でガッチガチになっていました。ですが、同世代の仲間やお世話になっている牛舎の方々に支えられ、初めて終えることが出来て感謝の気持ちでいっぱいです。闘牛は長くて15歳くらいまで闘います。「楽翔」がこれからどんな成長を見せてくれるのか楽しみです。また、7月場所には、東京と新潟市から会社の上司や先輩、また友人たちが観戦にきてくれ、牛の角突きを楽しんでもらえてすごく嬉しかったです。

 闘牛会に入り、外側からではなく内側から見つめることで今まで知らなかった新しい世界を知ることができ、小千谷市東山地区は私にとって一生をかけて通い続けていきたい場所の一つになりました。これからも撮影を継続していき、伝統文化の継承の​​一端を担っていきたいです。

 気づいたら今年で29歳。18歳で大学進学を機に上京してがむしゃらに過ごしていたらあっという間に10年が経ってしまいました。そして小千谷牛の角突きを撮影し始めて5年ほど。そろそろ撮りためてきた写真も多くなってきました。30歳までの目標として、角突きの作品をまとめて国内のギャラリーやオーディションで評価してもらえるように準備していきたいと思います。展示した際には観ていただければ幸いです。これまで全6回お読みいただきありがとうございました。まだまだ書きたいこと、見せたい写真は一杯ありますがここで一区切りとします。機会があれば番外編を書かせていただきたいですね。今後もご指導、応援のほどよろしくお願いいたします。それでは、次回は写真展会場でお会いしましょう。(終)

山田凌

山田凌

山田凌 (やまだ りょう) 1996年生まれ。香川県丸亀市出身。 日本大学芸術学部写真学科卒業。

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