八月の中旬、私は十日ほど実家に帰省していました。
私の出身は神奈川県の鎌倉市で、山と海に恵まれた自然、そして豊かな歴史を持つ古都です。自然と歴史が調和したこの街で、私は18歳まで育ちました。
私は今20歳。成人式以来の帰省でしたが、ここ最近は実家へ向かうまでの江ノ電等で観光客の多さに眩暈がしそうです。私の最寄駅も、ここ数年で観光客が目に見えて増え、多様な言語の会話で街が弾んでいます。故郷が人で溢れかえっているのは嬉しい反面、故郷が少しづつ思い出と形を変えていく様には、心の隙間に風が通っていく感覚を覚えます。
今回の帰省の主な目的な、小説の執筆をすること。実家で静かに創作、また久しぶりに中学高校時代に通っていた図書館で思う存分小説を書くためでした。
というのも、私は今源実朝をモチーフにした作品を書いており、源実朝ゆかりの地を目で見て巡るには、実家に帰るのが手っ取り早かったのです。

源実朝の歌集「金槐和歌集」
鎌倉幕府の三代将軍でありながら、和歌を読み続けた源実朝。その話はまたゆっくりしたいのですが、今回はあくまで故郷のお話。
実家に帰省した目的は他にもいくつかありましたが、その一つにタイムカプセルの掘り起こしというものがありました。それは小学生の時に埋めたもので20歳で再び開ける約束をしていたもの。
同級生からの連絡を受け取って当日行ってみると校門には十数人の懐かしい顔が。みんな背も伸び、すっかり大人になっていましたが、かえって担任だった先生方は全然変わっていないように見えました。
思い出話に花を咲かせ、そのうち辺りが花束でいっぱいになると、みんなでシャベルを持って裏山へ。率先して動く人、茶化して下で待っている人、そんな一つ一つの仕草が、あの頃の記憶を呼び起こしました。

真夏の作業に、全員汗を拭いながらの作業、、。
そしてついに発見。取り出してよく見てみると、

懐かしのタイムカプセルには、当時の私たちの文字が。(集合時間が違うのは、この日は雨で延期になったため)
実は私は自分が何を入れたのか、うっすらとですが覚えていました。未来の自分へ「夢は決まりましたか?」という質問と、今はどう考えているか。ただ、詳細は全く覚えておらず、その記憶が正しいのかもわかりません。当時の自分の考え、文字、そして20歳の自分へ何を期待していたのか。それが知りたくて兵庫より帰ってきました。

しかし、中を開けてみるとそこには土しか入っていませんでした。箱には穴が空いており、そこから水が入りこんで中の紙をゆっくりと土にしていったのだと思います。
待ちに待ったタイムカプセルがこの結果とは、、、これにはさすがに笑うしかありませんでした。もちろん、みんな多少は残念だと落胆していました、けれど、八年ぶりに再会をする口実となってくれただけで、このタイムカプセルは大きな役目を果たしてくれたのだと思います。
あの頃の自分が描いた手紙はどんな内容だったのか、今ではもう知る由もありません。ですが、八年前の私たちには20歳まで残したかった、あるいは伝えたかった思いがあったのだと再確認できただけで、十分なように思えました。
タイムカプセルを開けたあと、先生が特別に校舎の中に入れてくださいました。今でも生徒のわがままに付き合ってくれる先生方には頭が上がりませんが、校舎に入るとそこには懐かしの光景が。
生徒の数が減った影響で、いくつかは変わっていましたが、当時と何も変わらない校舎に同級生たちも声を漏らして周っていました。
そして、紹介したいのがこの景色。

教室からは、海が見えていました。
しかし、驚いたことに私は小学校の教室から海が見えていたことをすっかり忘れていたのです。
八年ぶりに帰ってきて、初めて私はこんなに美しい景色をそばに学んでいたんだと気がつきました。
今回の帰省では様々な変わったものと変わらないものを確認しました。
私は今20歳で、これからどんどん変化しようと躍起になっています。よりよい作品を作ろう、小説を書こう、評価をしてもらおう。昨日の自分とは、少しでも変われるように。
ですが、今回の帰省で私の心を打ったのはどれも、時間が経っても変わらないものでした。
変わることだけを意識していたけれど、変わらないということがいかに人に安らぎを与えるのか、豊かな感情をもたらすのか、よく知れた夏の日々でした。
変わりながら、変わらないものを持ち続けようと思います。
未来へ託した想いが、そのまま伝わってくれるとは限りませんから。
言の葉散歩、今月はこれまで。ありがとうございました!
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