鍵井 瑠詩

言の葉散歩 〜秋〜

一番好きな季節は秋、という人は多いはず。私もその一人。
燦々とした明るい夏から、凍てつく冬へと移り変わるその境目。どことなく昼から夜へと移る、夕暮れとイメージが重なります。太陽が一番最後に見せる美しい紅い光。夕映えと紅葉が被るのでしょうか。秋を振り返ると、いつも夕暮れな気がします。
12月に入り、みるみる秋は枯れていきますが、いくつか写真をご紹介したいと思います。


11月に東京都立川市にある国営昭和記念公園の銀杏並木の撮影をしました。
このようにやはり人は多く、みな美しい秋に浸るように銀杏を眺めていました。
いくつか文芸の作品も写真から作ったので、それもご紹介。


短歌です。
相変わらずスローシャッターで撮影するのが好きなんですが、秋や紅葉を撮影するのには合っている気がします。どことなくノスタルジー的な雰囲気が増すと言いますか、伸びて行く感覚が秋と被ると言いますか、、。説明しづらい感覚で、その相性の良さを体感しています。
スローシャッターで撮影した銀杏、その伸びやかな質感と、秋の月の組み合わせ。無数の銀杏はどことなく流れ星や夜空を彷彿とさせるかもしれません、静謐な秋を詰め込んだ作品です。


それぞれ書いてみました。右上のみ短歌ではありません。
今年の私の秋のイメージは、まさしくこの写真たちになりました。撮影、創作を通じた素敵な出会いに感謝をしたいです。

この作品たちはそれぞれ私のInstagramでの投稿『GINKGO』に収録してますので、よかったらそちらもどうぞ。
最後に、私が一年前ぐらいに書いた散文を一つご紹介。
秋、という言葉を思い返すとこの詩をふと思い出します。
ふっと思い返して、心を沈める、まさに私にとっての秋のような散文です。

「ひちり」

 ひちり。 
 江ノ電の扉が開くと、風が吹きつけた。
 ひちり、ひちり。
 ホームには、点字ブロックの上に染まった紅葉が落ちている。
 ひちり。
 紅葉を踏むごとに、乾いた音が鳴る。
 木製のベンチ。一本しかない線路。吹き抜ける風。路面電車の無人駅。
 七里ヶ浜駅。
 ここは帰ってくるたび、夕暮れな気がする。車窓の放送は一向に響いている。
「しちりがはま~しちりがはま~」
 やがて扉は閉まり、観光客が改札を抜けていくと、駅は静まり返る。
 江ノ電が起こした秋風を一匹、鼓膜が捕まえる。
 ひちりがはま。 
 秋風には、まだほのかに君がいた。いつか二人で、七里ヶ浜をしちりがはまと呼ぶか、ひちりがはまと呼ぶかで、言い争った。小学生の頃。
 秋風の手触りは、思い出の質感とよく似てる。
 ひちりがはまのほうが、この風に似ていて、いいかもしれない。

故郷を書いています。
みなさんも、自分の故郷の秋を思い返してみてはいかがですか? 思い出にもう一度触れることができるかもしれません。

言の葉散歩今月はここまで。ありがとうございました〜

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩(かぎい りうた) 2004年10月19日生まれ。神奈川県鎌倉市出身。 大阪芸術大学文芸学科在学中。 2023年 展示会「青を読む」 2024年 個展「瑠璃色の森」 詩写真集「青を読む」発売中

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