鍵井 瑠詩

言の葉散歩 〜鑑賞記録2025〜

あけましておめでとうございます。
2026年最初の言の葉散歩となりました。
たまに、ふと言の葉散歩をふりかえって読むことがあるのですが、案外覚えてないものですね。逆に、時間を置いてから読むと当時の考えが蘇って、新鮮な気持ちを得られます。ある種日記的な要素があるのです。
ということで今回は、私が2025年に鑑賞した芸術、文芸作品を記していこうと思います。
・小説 
・詩 
・映画 
展示会
これらのジャンルで、特に良かった作品を振り返り&皆さんにご紹介〜

・小説


『霧のむこうのふしぎな町』柏葉幸子作 講談社青い鳥文庫
 1975年に発行された『霧のむこうのふしぎな町』の、青い鳥文庫版。今から、50年前の物語ということですが、まったく古い物語には感じません。それどころか、五十年経った今でもぴかぴかとまばゆく輝いています。
 本作は一人旅に出た小学六年生のリナが霧の中から現れた不思議な街で生活をする、というファンタジー作品。〈めちゃくちゃ通り〉に住んでいるへんてこで心優しい人々と、リナはふしぎなひと夏を過ごします。
 私はこの物語を初めて読み終えた時、「日本にもこんなファンタジー小説があったんだ」と驚きました。英米仏のファンタジーの名作にも引けを取らない、それどころかより心にすっと響くようなそんな感動を覚えた小説でした。
 私が好きなのは『星の王子さま』『魔法使いハウルと火の悪魔』。これらの共通点として、読んでいる間はそのファンタジー世界にのめり込み、読んだ後は静かに感動の余韻が続きます。そして物語に懐の深さがあり、一度で全てを理解するのはむすがしく、繰り返しその世界に浸りたくなるような物語です。
 まさしくこの『霧のむこうのふしぎな町』も同じ感覚を覚えました。そして本作の抜きん出てる点としては、物語世界にすっと入り込めることです。やはり舞台が日本で、日本人の主人公だからでしょうか? 摩訶不思議で、心温まるファンタジーに浸っていたのに、どこか透明感のある話だと思えました。それは、世界の入口、そして終わりがあまりにもすんなりと心に溶け込んできたからなのかもしれません。
 日本ファンタジーの底力を知った『霧のむこうのふしぎな町』が、2025年に出会えた特に良かった小説です。

・詩


『半獣神の午後』(牧神の午後) ステファヌ・マラルメ
 近代フランスを代表する詩人ステファヌ・マラルメの代表作。交流のあったマネの挿絵入りの豪華本が1876年に出版。また、この詩はドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』、ニジンスキーのバレエ『牧神の午後』に多大なインスピレーションを与えたことでも知られています。
 午睡から醒めた半獣神が、二匹のニンフ(水の精)たちとの官能的な体験について回想していく、そんなあらすじです。
 私がこの詩を選んだのは、今まで読んできたどの詩よりも綿密に計算され、詩人の狂気じみた詩への献身が伺えたからです。まず前提として、この詩は読みにくいです。象徴主義の作品なので、暗示や照応が作品全体の意味を取りづらくしています。ですが、読み解いていけば行くほど、マラルメという人間の内面がわかって行くような気がして面白いです。マラルメという人間を探検して行くような感覚、でしょうか。
 ボードレールやエドガーアランポーに影響を受け、彼らの思想や詩風を独自で解釈して、一歩進んだ作品を編み出して行く。マラルメをフランス近代詩の最高到達点と呼ぶ人もいるぐらいで、マラルメの詩は完成度がとんでもなく高いのが特徴です。それはやはり、マラルメがとことん詩を突き詰めて研究し、綿密な理論の上で創作をしたからでしょう。
 私が惹かれるのは、そんなマラルメの詩に対する態度です。だからこそ彼の作品を読みたくなります。どれだけ難解でも、ちゃんと紐解いていけば必ずその先に答えを用意してくれているのです。そんな感動を味わった『半獣神の午後』を選びました。

・映画


『劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス』 2002年公開
 ここにきてまさかのポケモン。マラルメの詩を紹介した後にすごい落差ですが、、、。
 ポケモン映画は小さい頃何本か見たことがありましたが、この映画は未視聴でした。(公開当時は生まれてもないので、、)作業中にパソコンで映画でも流しておこうと思って、この映画を選んだのが始まりでした。ですが、物語が進んでいくにつれ、気づいたら作業の手を止めて画面に釘付け。
 舞台は世界で一番美しい都〈アルトマーレ〉。モデルはイタリアのベネツィア。水上レースや、西洋の迷路のような街並み。悪党に襲われていた少女とサトシが共に路地を駆けて行くシーン。再開した少女を追いかけて行くうちに迷い込んだ秘密の庭。甘くも儚いラストシーン。どれも美しい映像で、臨場感あるカメラワークが印象的でした。
 なにより音楽に惚れ込みました。『謎の少女、再び(迷宮)』という作中流れるBGM。サトシがアルトマーレを駆け回る時に流れるのですが、アコーディオンや笛を中心にしたメロディーが世界観と見事にマッチしていて、映画の雰囲気をぐっと盛り上げていました。
 少し調べると、本作の興行収入はかなり悪かったようです。しかしその一方でポケモン映画で唯一アカデミー長編アニメ映画賞に出品されたそうです。う〜むなるほど。
 ポケモンの映画、特段期待もしていなかった分「こんなに面白かったんだ」とびっくりしました。そのうれしい発見ポイントで今回選出。
 
 映画館で見た作品だと、『もののけ姫』のIMAXが一番良かったです。今年公開なら、『爆弾』かな?

・展示会


『モネ 睡蓮のとき』 京セラ美術館 2025年3〜6月
 印象派の巨匠クロード・モネの作品五十点が京都に集まった大規模展示会。モネの睡蓮をはじめとした、数多くの作品を鑑賞できました。
 何より今回面白かったのが、モネの晩年に焦点が当てられていること。モネといえば有名なのが『印象・日の出』(1872)や『パラソルをさす女』(1886)。これらは比較的若い頃の作品です。この展示では、クロード・モネ(1840〜1926)のうち、1890年〜最晩年までの作品を鑑賞できました。
 モネの晩年は、苦難の連続だったと言えるでしょう。最愛の家族の死、白内障発症、第一次世界大戦。印象派の代表格のモネは、それまでの絵画と比べて抽象的、平面的な絵画を描くことで知られていると思いますが、晩年はその画風がより際立っていきます。
 モネは晩年大装飾画の創作に取り掛かります。長辺が二メートルもある大きな画面に描かれた睡蓮は、その迫力はもちろん筆使いもより鮮明に鑑賞できます。その力強さに、70を超えていたはずの当時のモネのエネルギーと、執念を感じました。
 また、私が特に惹かれたのはその大装飾画と並行して手がけられた小型連作です。モチーフは、水の庭にかかる日本の橋や、花の庭のバラのアーチ。それぞれ、説明なしではもう何が描かれたかわからないほど抽象化しています。白内障が進行していたモネが織りなす、激しい筆のタッチ鮮烈な色彩。
 その後の現代アートに通づるものを確かに感じました。たった一人で、大きく絵画を進歩させていったんだなと。その絵は明らかに後世のジャクソンポロックを代表とする抽象表現の先駆け的なものでした。
 月に一回程度の頻度で展示会に行く私ですが、2025年で一番印象的なのは、この『モネ 睡蓮のとき』。上の写真は、展示会の図録です。私は必ず買うようにしています。この図録が溜まって行くのも、今では展示会の楽しみの一つなのです。

鑑賞記録2025 振り返ってみると、いろんな出会いのあった一年でした。2026年も、よりよい出会いがありますように。
言の葉散歩今月はここまで!ありがとうございました

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩(かぎい りうた) 2004年10月19日生まれ。神奈川県鎌倉市出身。 大阪芸術大学文芸学科在学中。 2023年 展示会「青を読む」 2024年 個展「瑠璃色の森」 詩写真集「青を読む」発売中

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