はじめまして、星野雄飛です。2023年に 第2回ナインギャラリー公募展「9の穴」展でグランプリをいただいたご縁でコラムを書かせていただく機会をいただきました。感謝申し上げます。仕事では北海道新聞社写真記者(カメラマン)としてスポーツからインタビューまで幅広く報道写真を撮影しています。普段はメディアで情報を「伝える」ことをしていますが、このコラムでは一作家として、写真と文章の持つ広がりのある力を用いて「感じる」場にしていけたらと思っています。 いただいた好機を活かし、ギャラリーと共に成長していけるようにシャッターを押し、筆を振るいたいと思います。全6回、お付き合いいただけましたら幸いです。
※本コラムは所属会社とは一切関係のない作家個人の意見・発言です。
初回のテーマは「距離感」。道東と自分の関係性から考えること、私がどのような人間であるのかということも踏まえて感じてもらえる回にできれば、と思います。2回目以降はよりテーマを絞りながら自分が住む道東という地域を見つめながら解きほぐしていくイメージで進めていく予定です。一昨日(2/1)紋別市が「流氷初日」を発表したようにまもなくオホーツク海は流氷で雪原になります。冷え込んだ朝に見えるダイヤモンドダストやサンピラーなど、まるで外国のような美しい風景が広がります。自分も実際に住む前に感じていた魅力的なイメージです。このようなイメージに捉われてしまうと実際の姿が見えてこない気がします。今一度自分の中で消化し、次の景色を見に行こう、という試みです。
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道東はオホーツク地方の中核都市北見市に住んでもうすぐ2年になります。盆地ゆえ、冬は冷え込むと氷点下20度をも下回る極寒の地です。とはいえ、住んでみると生活する分には不自由もなく名物の焼肉は安くてうまい、オホーツク海に面する同市常呂町まで足を延ばすとホタテや牡蠣がおいしいことこの上ありません。楽しく生活する中、私の中にはオホーツクで暮らす「戸惑い」が抜けません。住んでいるのに土地の風土を素直に受け入れられないようなもどかしさ。決してネガティブに捉えているわけではなく素直な感想です。そこにあるのは「距離感」。正体は広さとしばしば感じるピーンと張り詰める緊張感です。
広さを最も感じるのは人工物に代表される土地と人間が交差する場所です。土地に沿って人が住めばそこには必ず人の暮らしと土地が接する部分が生まれます。道路一つ取ってもそうです。しかし、オホーツクではなかなかそこに暮らしの温度を感じません。多くの町が100年ちょっと前に開拓され作られた町で碁盤の目のように道が張り巡らされます。そして、街を抜けると広大とした広い畑が広がり大型のトラクターが暗くなってからも田畑を耕します。この空間的な締まりのなさからくる冷たさに少し戸惑います。オホーツクを離れて旅に出るとふとした街角できゅっと、ぎゅっと温かく包み込んでくれる感覚に包まれることがあります。まるで母親に抱かれているかのようです。自分が外の人間だからこそ道東の特徴がより鮮明に見えてくるのは一つあると思っていて。むしろ、温度を感じるのは人間が作った景観視点で見えてくる自然であって、ここでは逆なのではないかと。自分の感覚を拡張しても空や海や山や川や森に邪魔するものなく触れ合えるのだと。これまで自分の中に育ってきた感覚も、この地で感じる感覚も大事にしていきたいとこの2年で思うようになりました。
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もう一つの感覚、緊張感は動物の存在に他なりません。市街地にクマが出ることはめったにないですが、JR北見駅前や自宅周辺にもキタキツネが歩いていますし、町を少し離れたら鹿や鳥、サケをはじめとする魚もその存在をチラつかせてきます。広く締まりのない空間に潜む動物の影。それがたとえ直接人間に害を与えないとしてもその気配に反応する「野生」が人間にもあるんだ、と感じさせてくれます。目の前の何気ない景色の中に現れては消える彼らの姿は里山の動物の存在とは異なる世界を見せてくれます。動物の生態に詳しいわけではないのであくまで感じ方の問題ですが生物の循環サイクルの大きさが違うのかな、と思います。
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これら2つの「距離感」は私が北見に来るまで首都圏や札幌といった大きな都市で暮らしていたことで知らぬ間に失ってしまった野性的な感覚との距離感だったのではないか、と感じます。
最後に「距離感」について考えた感覚を共有させていただきたいと思います。車で一時間ほどのダム湖でのことです。
太陽が山際に隠れると寒く長い夜の始まり。
駐車帯に車を止め、鹿たちが作った森の中に続く道を眺める。
20mほど先だろうか、木に隠れていた鹿が一頭顔を出した。
5秒間、見つめあう。少し私の身体が揺れる。
ピーーーー。
耳というより胸に共鳴するような高い鳴き声とともに鹿は消えていった。
私と鹿の一緒の時間はあっという間に解けた。
同時に山の中に取り残された孤独感がふと自分を襲ってきた。
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鹿との距離感、野生の中の距離感。それでもほんの5秒だとしても鹿と同じ時間を共有できたような気がしました。道東がみせる美しさよりも写していきたいものだと思えた時間でした。 道東の中に自分が接して入り込んでいけるように。
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この2年間で道東に漠然と抱いていたイメージは壊れ、目の前に映るものが「風景」から「景色」に変わってきました。この景色の中で移り変わる空気を吸い込み、暮らしを見つめる。これからもっと深めていければと思います。
報道写真を手掛ける傍ら、道東を解釈しなおす旅。寄り道することもあるかもしれませんがお付き合いいただけたら幸いです。
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