山田 凌

「心とレンズの距離」

 皆様、こんにちは。写真家の山田凌(やまだ りょう)です。

 東京では3月末に桜の花が開花してあっという間に葉桜になってしまいました。天気が良くない日も多く、寒かったり暑かったりしていますが、みなさん体調等は崩してないでしょうか? 今年は、仕事で全国の桜を撮影していることもあり、多くの桜を撮影できていますが、最近の悩みは撮影の日の天気がとことん悪いことです。お祓いに行こうかと悩むレベルです・・・。写真家にとって、天候の運も大事なことだと思うので日々の行動で運を拾っていきたいと思います。

さて、3回目の今回は、「心とレンズの距離」と題して長年、撮影を続けている1人の被写体の写真を交えながら考えていきたいと思います。

 私が被写体の少女に出会ったのは、11年前に遡ります。当時、17歳だった私は、高校3年生の時に、写真の町として有名な北海道東川町で開かれている「写真甲子園2014」に出場しました。写真甲子園は、今年で32回目を迎える高校写真部員の多くが憧れを持つ大会です。私も高校1年生の春に写真部に入部してから、写真甲子園に出場することを最大の目標に部活動に励んでいました。大会には、役場の職員さんやホームステイ先のみなさん、地元の高校生やブラスバンドの小学生など多くの町民が関わっていて、町全体で大会を盛り上げています。出場する学生にとっては写真のことだけを考えることができる至福の1週間です。

 小学校のブラスバンドに参加していた少女は当時、小学校6年生。開会式前にご飯を食べている姿を撮りたいと思い、数人に声を写真を撮らせてほしいと声をかけました。快く応じてくれ、何枚か撮影させて貰いました。彼女はその中にいた1人で、「すごく人懐っこくて、よく笑う元気な子だな〜」と感じていました。大会を終えて、帰る日の前日に町で開かれているお祭りでいた時にたまたま再会したことで仲良くなり、それから連絡を取るようにようになりました。

https://syakou.jp/archives/2014/schools/16.html

(写真甲子園サイトから引用 )

2015〜2017年撮影

 大学生になってからは毎年、OBボランティアとして東川町を訪れるようになり、自然と会う度に撮影するようになりました。大学4年生の時には、彼女の写真を撮るために憧れていたライカを購入したのもいい思い出です。

 コロナ禍で撮影できない時期もありましたが、撮影を7年間ほど続けた時に、彼女が大学進学のために東川町を離れることを聞いて1つの作品にまとめて展示したいと考えました。展示をするなら本人や家族に観てもらえる場所でやりたいと思い、東川町にある「東川町文化ギャラリー」の展示場所をお借りして「時を紡ぐ」と題して写真展を開催しました。

 写真展では写真の大きさやレイアウトにこだわりました。小さいものはA3サイズから大きものはB0サイズにまで引き伸ばして展示することで写真が全く違う見え方ができたり、新たな発見も多くありました。何より嬉しかったのは彼女の家族や友人に来ていただき、「成長を残してくれてありがとう」と伝えられた時には撮影を続けて本当によかったと実感しました。


【写真展ステートメント】

2014年の夏は猛暑日が続いたと記憶している。

当時、私は高校3年生で写真部に所属しており、とにかく写真を撮ることが好きなカメラ小僧だった。

写真部の目標は毎年、夏に開催される全国高等学校写真選手権大会、「写真甲子園」に出場することを一番の目標としていた。

高校生活最後の年にブロック予選を突破。

私は念願であった写真甲子園本戦大会に出場するために、夏の北海道東川町に降り立った。

そこである1人の少女と出会った。彼女の名前は「ひより」

当時、東川小学校6年生でブラスバンド部に所属しており、写真甲子園の開会式に演奏者として参加していた。とにかく元気でよく笑う、太陽のような子だった。

私は、彼女の屈託のない人柄に惹かれて以後、北海道を訪れ彼女の成長を記録し始めた。夏は水遊びをしたり、夏祭りで花火を観たりした。冬はワカサギ釣りや雪遊びをして共に過ごした。

そんな彼女との出会いから7年が経ち、当時、11歳だった彼女は18歳になり、17歳だった私は24歳になった。彼女は昨年、大学進学を機に東川町を離れた。

私はこれまでの7年間をファインダーを通して彼女の内に秘める機微を見つめ直した。

これからも写真の街、東川町が紡いでくれたこの縁を写真に刻み込んでいきたい。


2023年1月、成人の集いで撮影

2023年8月撮影

 展示を終えた現在も撮影を続けているのですが、写真を撮影日付順に並べて見てみると感じたことがあります。

 1つ目は、被写体との「距離感」です。撮影を始めた頃は、できるだけレンズの24㎜(広角域)で被写体に近づいて撮ろうとしているのが、年数が経つにつれて35㎜・50㎜・70㎜と使うレンズの焦点距離が無意識のうちに段々と遠くなっていることを感じました。

 2つ目は、「テンションの変化」です。当初は、笑っている写真や無邪気に遊ぶ写真が多かったのですが、自然な表情を撮影した写真が多くなっているように思います。最近では、喧嘩になることもあったりして、ただ楽しくてキャッキャしていた時とは少し違うのかもしれません。

2025年3月撮影

 撮影を始めて今年で11年。お互いに年齢を重ねて大人になっていくにつれて、顔立ちや外見など目に見える身体的変化だけでなく、価値観や信念など内に秘める心境の変化も写真に少なからず写り込んでいるのではないでしょうか。この変化は、長年撮影を続けてきたからこそ見えてきたものです。無意識のうちに抗うことができない変化が起きていると思うと少し寂しい気持ちとこれからどんな写真が撮れるかのワクワク感が混在しています。

 先日、大学の卒業式を迎えて、会いにいった時、ずっと疑問に思っていたことを聞きました。「なぜ、12年間写真を撮られることを断らなかったのか」。彼女は、「なんとなく自分の姿をずっと写真で残してほしいと思った」と話しました。

 これからも距離感を探りあいながら、できるだけ長く写真を残し続けていきたいと考えています。

2025年3月撮影

2025年3月撮影

山田凌

山田凌

山田凌 (やまだ りょう) 1996年生まれ。香川県丸亀市出身。 日本大学芸術学部写真学科卒業。

関連記事

コメント

  1. 浪久晶弘

    ご無沙汰しています。
    北海道の展示は仕事の関係で伺えませんでした。
    今でも残念でなりません。
    これからも仕事以外の撮影を期待しております。

  2. 山田凌山田凌

    浪久様
    ご無沙汰しております。いつも応援ありがとうございます。
    展示の時は、お花送っていただきましてありがとうございました。すごく嬉しかったのを覚えています。
    現在も細々と作品を撮り続けています。写真展を開けるように頑張ります!その際はぜひ観にきていただければ幸いです。
    山田凌