鍵井 瑠詩

言の葉散歩 〜短歌〜

言の葉散歩も第四回となりました。
今回取り上げるのは短歌です。私が普段書いているのは、文字数などの決まりがない自由詩ですが、短歌は五・七・五・七・七の31音からなる定型詩。
私も昨年から短歌教室に通いながら、創作活動に励んでいる文芸でありますので、今回は取り上げさせていただきました。

私は普段、歌人の高田ほのか先生の短歌教室に通っています。
短歌を習ってみたいと教室を探す中で、判断の材料になるのはやはり先生方の作品だと思います。
そして私が教室を決めたきっかけになったのが先生のHPに載っていたこの短歌。

無理をしてキリンを一頭買いました 
空から君を探すためです


一目見た瞬間から、優しい不思議な世界が描き出されていきます。
きっと雲に届くほど高いキリンの首、その上に乗って君を探す。人を想う気持ちをこうも淡いタッチで、メルヘンチックに表現できるなんて、31音の短歌だからこそ輝きを増す言葉たちなんでしょう。
水色の空はきっと雲が薄く覆っていて、そこに黄色い首がすっと伸びる。そして光を放つ、君を探す瞳。
透明感のある水彩画を見ているような気分にもなりました。
短歌を好きになるきっかけになった歌です。

高田ほのか先生の歌集『ライナスの毛布』

また、この教室では自分の作品を提出するだけでなく、新たな短歌と出会えるのも楽しみの一つ。
『明』というお題で、私が短歌を発表した時のことです。
私が詠んだ歌はこうでした。

月と目が合いイヤホンを外してみる そういや夜って透明だった

イヤホンが手放せない生活を送っていますが、不意に外してみると普段聞き逃していたさまざまな音が聞こえてきます。イヤホンをつけていればいつでも音楽や動画の世界に浸れますが、かえって目の前の世界を忘れてしまいがちですよね、という気持ちで詠んだ歌です。

先生はこの歌を読んで、「鍵井さんは月とお友達なんだね」と一言。
そして、私と価値観や感性が似ている短歌を紹介してくれました。
それは谷川由里子さんの、この歌。

月がいちばんポケットに入れたいものだなって月に聞かせてから寝る

うわぁ、いいな、と素直な言葉が心に降りてきました。
そして、私の感覚とどこか似ている。私よりほのかに少女的で柔らかいけれど、きっと見ようとしている世界は重なるところがある人なんだな、と勝手ながら親近感を抱いたりしました。

谷川由里子さんの歌集『SOUR MASH』

日常で見つけた言葉を紹介していく『言の葉散歩』。
今回はわたしの生活の一部でもある短歌を紹介してみました。
31音という枠組みがあるからこそ、そこで輝く言葉がある。散文や自由詩では言い切れない表現、定型ならではの凝縮された表現、31音のリズムだからこそ表現できるものが、明確にあるのだなとようやく最近わかってきたような気がします。

また、大学の授業でも歌人の先生に教わっているのですが、その先生曰く「短歌はやっかいなんだ」と。
俳句は余計なものを入れない。俳句は無駄が削ぎ落とされた文芸だけれど、短歌には七・七がある分、そこに感情などを入れる余地がある。その結果、歌の中で人間的なギクシャクが生まれたり矛盾めいたものが生まれたりする。
けれど、「それが人間らしい」と。
もしかしたら、この世界と人とが適度に混ざった歌が良い歌なのかもな、と考えたりした一幕でした。

せっかくですので、最後にもう一つ私の歌を。
直近の短歌教室で提出した歌です。
お題は、私の大好きな『猫』

三月がおわると春は猫になるまるくなったりにたにたわらう

世界と、それを詠む人とが、混ざり合って生まれた言葉。
31音だからこそ輝く言葉を、これから探していきたいですね。

近所の神社にて

毎月第四月曜日に更新の言の葉散歩。
読んでいただきありがとうございました。
次回の言の葉散歩をお楽しみください〜!

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩

鍵井 瑠詩(かぎい りうた) 2004年10月19日生まれ。神奈川県鎌倉市出身。 大阪芸術大学文芸学科在学中。 2023年 展示会「青を読む」 2024年 個展「瑠璃色の森」 詩写真集「青を読む」発売中

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