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学びの大切さ

皆さんこんにちは、星野雄飛です。まずは誰にも聞かれていないですが(笑)カーリングの試合報告を。出場5チームの総当たりと上位4チームでの総当たり戦で1勝5敗。予選落ちでした。それでもあと一勝で道大会に行けたので悔しさの残る大会になりました。 

 暑い日が続いていますね。涼しそうな北の大地北海道も14日連続で真夏日が続くなど本州に負けない暑さを誇っております。昨年まで一度もつけていなかった自宅の冷房も思わずつけてしまったほどです。本州は道内よりももっと暑いと思うので体調には皆さん気を付けてください。 

暑さの影響で北海道のホタルも例年より早く飛び始めていました=7月5日

 さて、今回は半年続いたコラムも最終回になります。これまでの振り返りをしながら、17日に世界自然遺産20周年を迎える知床について書いていけたらと思います。まずは振り返りから。第一回で「距離感」について述べました。風景に沁み出にくい暮らしのあたたかさと動物による緊張感が「戸惑い」として感じるということで紹介しました。初回にこのことを書いてみたのはコラムを通して道東と向き合うことで距離感の変化があるかどうかを実験してみたいところがありました。結果としては距離感に変化はなかったと思います。 

 その理由を考えてみました。「学び」と「人物撮影」、この2点が足りなかったと思います。日々撮影している風景、景色は時間や季節によってその見え方を変えてきますが、それは表層の変化でしかありません。表層をつかんでいく作業は面白いもので撮影テクニックをも駆使すると一見すると多様な表現をしている気になるんです。ビジュアル的に面白いものにも変身を遂げます。しかしながら、それは1枚の写真をどう見せるか、の話です。(前回のコラムでも旅を通して実感しました)自分自身の中身を深めていき、過去の自分や他者と同じ景色を見ていてもそれをどう解釈するか、という点を意識しないと半年前との変化は生まれてこないわけです。そこに必要なのは土地や被写体の歴史や今を学ぶことだと思います。初回にも書きましたが、道東は厳しい気候環境ではありますが日常生活を送る分には特段不便はなく、写真を撮るという面でいうと絵になる景色が多い恵まれた場所です。言い換えると「なんとなくそれっぽいのが撮れてしまう」土地でもあります。切り取りやすい望遠レンズをあまり使わないようにするなど工夫はしていましたが、そこに対する甘え、依存が2年以上住んでいても抜けていないことに半年間、言葉を考えて紡いできたことで再認識できました。

 もう一つの理由は人物撮影と書きましたが、ポートレートというわけではなく会話を含めた撮影行為です。この土地の人の暮らしに入り込むことで人物をメインで写さなくても風景の中に温度感を表現できたのに、と感じます。これも広義では「学び」に入りますね。これに関しては自分の好きな土地ではその土地での暮らしを知るために「話したい」と思うのに自然にはなかなかそう思わなかったのです。こればかりは相性もあるかもしれません。 

 最後に知床へのまなざしに関して触れていこうと思います。17日に世界自然遺産登録20年の節目を迎える知床半島。道外の人にとっては憧れイメージがある土地かもしれません。ヒグマやシャチなど野生動物の宝庫でもあり、大自然という言葉がぴったりです。流氷を受け止めるような凛々しい姿、幅25キロほどしかない半島に1500メートル級の山々が残雪をたたえる山々がそびえる険しさ。冬も夏も「半島美」を見せてくれます。ダイナミックな自然環境が半島内にぎゅっと詰まっていることは確かです。春夏秋冬、知床に通うと生態系の豊かさや原生林に広がる野生の緊張感、流氷のダイナミズムが体中にしみ込んできます。一方で、「世界自然遺産だ、見に行こう」と知床に観光客が来ても一回の訪問だと魅力が伝わりにくい場所でもあるかもしれません。世界遺産として保全、クマなどの野生動物との事故を防ぐという意味で、他の自然遺産地域に比べて気軽に魅力を体験できる場所が少ないように見えます。

 代表的な観光地でもある知床五湖は一部で全国で2例しかない自然公園法による「利用調整地区制度」が導入されており、利用者の数をコントロールしながら原生的な自然の保全にもつなげています。時期によってはガイドさんがいないと散策できないコースもあり一見開かれていないようにみえます。しかし、ガイドさんと森を歩くことは先述した「学ぶ」行為そのものですし、世界遺産地域内でお金を回すことは結果的にガイドさんの数も増え、20年の歳月を経て自然保全と利用の「ルール」が見えてきた知床において利用者のレベルや要望に合わせた多くのコースを整備することにもつながるはずです。人がたくさん来るからこそ、地域内で経済を回し、知識を持ち帰ってもらい、旅行後も知床に対する想像力を持ってもらう。行った、見た、だけで終わってしまいがちな旅路。それじゃもったいないよ。知床は静かに教えてくれました。 

 作品制作における「学ぶ」ことの重要性は今回のコラムで何度も書いてきました。そこで実際に知床についてほんの少し勉強してみました。地質的には千島海溝で北米プレートと太平洋プレートがせめぎあう中で生まれたわけですが、阿寒湖や屈斜路湖のカルデラのある活火山帯から斜里岳などの独立した死火山帯、そして知床半島のカルデラを持たない活火山帯が一つのつながった火山活動であることがわかります。加えて観光名所のオシンコシンの滝やウトロ漁港にそびえるゴジラ岩は半島が出来上がる前の400~200万年前の海底火山活動時の溶岩や岩脈であるなど見慣れた景色の見え方がガラッと変わります。世界遺産登録で課題となる人と自然の共生の視点で人の歴史に目を向けると約8000年前に縄文の人たちが住み始め、6世紀以降にはサハリンから南下してきたオホーツク人と呼ばれる海洋狩猟民族が外からやってきます。その後も半島にあるトビニタイ遺跡から名付けられたトビニタイ文化やアイヌの人たちの暮らしがあるわけです。自然遺産ゆえ、盲目的になりがちな歴史の部分。そこに意識を向けてみるのも楽しみ方の一つです。実際に写真家の中西敏貴さんも宗谷・オホーツクに広がる遺跡をテーマにした「地と記憶」を発表されていて木村伊兵衛写真賞のノミネート作品の構成要素にもなっていました。 

 学んで撮って学んで撮って。この繰り返しをしていくしかないのかもしれません。これまで、直観を信じすぎていた面もあります。もちろん大事なのですが、直観のみで作品を作りきれる人は天賦の才の持ち主です。今や写真は誰でもボタンを押せば撮れる時代です。だからこそ楽しく撮るだけではダメなんだ、ということが身に沁みました。

 ここまで半年間お読みいただきありがとうございました。長文と複数の写真をうまく操れたかわかりませんが、読んでくださった方が頷いてくれたり、逆に反対意見を持ってくれたり、コラムを通して考えてくださることができていたら幸いです。今回で一区切りとなりますが、いつか展示やネット上でお会いできた際には、また、よろしくお願いいたします。

星野雄飛 

星野雄飛

星野雄飛

星野雄飛(ほしの ゆうと)1997年6月26日生まれ。神奈川県川崎市出身。上智大学卒業。北海道新聞社写真記者。報道写真を撮る傍ら、道内外で風景や暮らしを中心に撮影。第2回Nine Gallery「9の穴」展グランプリ(2023)

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